没落亭日誌

科学史/メディア論のリサーチ・ダイアリー

27 March 2019 / Crimmins, 'Jeremy Bentham'

  • 5月の日本科学史学会報告のための予稿を提出した。
  • 7月のHistory of Science Society学会発表がアクセプトされた。準備しないといけない。
  • Benthamiteやphilosophic radicalsについて調べるためにStanford Encyclopedia of Philosophyを読んだ。

    • Crimmins, James E., "Jeremy Bentham", The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Spring 2019 Edition), Edward N. Zalta (ed.), URL = https://plato.stanford.edu/archives/spr2019/entries/bentham/.
    • やはり、philosophic radicalsといっても、特に同質的なグループではなかった的なことが書いてあったので、そうだろうなと思う。歴史学ではときどき使うことがいて、そのたびにどういう意味でいっているのかはかりかねて困惑するのだが、J. S. Millが特定の歴史的コンテクストで特定の目的で利用したカテゴリーなのだろうし、分析概念として使うのをやめるか、使うならばどういう意味で言っているのか特定化したほうがいい気がする。それはそれとして、この時期の社会政策の合理性を支えているロジックを分析する仕事は重要なのでそういうのは詠みたい。

      Concrete manifestations of happiness, for example, could be found in personal security and reduced crime rates, enhanced health and declining death rates, broader opportunities for education, the reduction of diseases caused by sewage pollution, and so on. The statistical measurement of these and other issues would provide a solid basis for the dissection of existing law and the development of new law, but Bentham’s thirst for such information was always well in advance of the available data. This deficiency did not, however, prevent him from developing the theoretical apparatus to direct the formulation of such laws. (Crimmins 2019 SEP)

    • Benthamはstatistical information収集に興味があったが、実際にはそうした組織が存在しなかったので仕方なくあきらめた、的な話、昔軽くしらべた時にはPublic Opinion Tribunalと絡めて統計データの重要性をBenthamは理解していたみたいな論文を読んだりしたのだが、どのようなタイプの情報がどのような形で提供されるのかまで踏み込んだ形で統計学との関係性を論じたものをみつけられなかった。そういう研究があるんだろうか。John Bowringの統計局構想はBenthamの影響下にあるというのは、もっともらしいのだが、しかしBowringはイギリス統計学史でさほど重要な貢献はできなかったような印象がある。
    • Foucaultのpanopticon論については懐疑的に書かれているが。これについてはFoucaultの議論がgovernmentalityみたいな流れではなく、単なる監視社会みたいな感じに理解されている印象があるのでこの評価がどこまで妥当なのかはよくわからない。Foucaultに否定的なものとしてはSemple, J., 1993, Bentham’s Prison: A Study of the Panopticon Penitentiary, Oxford: Clarendon Press.肯定的なものとしてはBrunon-Ernst, A., ed., 2012, Beyond Foucault: New Perspectives on Bentham’s Panopticon.(Farnham: Ashgate).があるらしい。
  • ちょっと作業スケジュールを見失ったので振り返る。

作業課題

William Guyによって主導されたSSLでのJohn Howard顕彰事業を通じての社会科学的selfの創出について論文を書く。論文執筆のために以下の作業が必要。

  • William Guyの社会思想

    • これについて最近調査中。博論審査ではGuyの立場はconservative=オールド・エリートによる慈善へと明確に反対しているが、リベラル・ミドルクラスとはいいがたい独特の社会観を示している可能性があるらしいと言われた。たしか、Roy PorterはGuyのことを(Chadwickと同じ種類の)Benthamite、Lawrence GoldmanはWhigだと見なしていた気がする。要復習。この辺のBenthamite, Whig, Tory, liberalとかいうラベル、いまひとつ役に立つのかどうかよくわからないので、可能なら使いたくないのだがどうなのだろう。
  • 史料読み直し/追加分析

    • William Guyの主要出版物すべてと、Howardメダルを取った論文については読んでおきたいところ。
    • 日本で昔書かれた社会調査史の教科書的記述ではしばしばJohn Howardが社会調査の始祖であるかのように描かれることがある。わたしはこれがずっと不思議だったのだが、さすがに日本の社会学者がWilliam Guyの議論に親しんでいたとはあまり思えない。なので、ここから先はわたしの推測なのだが、アメリカ/イギリスなど英語圏で影響力のあった昔の社会調査法の教科書においてHowardの名前が言及されていたのではないか。こうした教科書における科学史的エピソードの利用利用が特定できれば、それを結論部分で利用してもよい。これについては大学の図書館が使えるまでは調査はまたなければならない。だが、日本では福武直がHowardを社会調査の始祖とする議論を展開していたらしい。さらにさかのぼって戸田貞三が1933年の『社会調査』でHowardに言及していた可能性があるのでこれは要調査。現在、確認できているかぎりで英語圏での最古ものはPauline V. Young, (1949) Scientific Social Surveys and Research, 2nd ed., Prentice-Hall, Englewood Cliffs, N.J.。これは二次文献からの文献情報から抽出した情報なので実際に確認する必要がある(初版は1939年にでている)。また、Norman A. Polansky (ed)(1960), Social Work Research (U Chicago Press)の第一章Mary E. Macdonald, 'Social Work Research: A Perspective'ではHowardがEdenとBoothにならんで社会調査の創始者として位置づけられているらしい。Gary Easthopeによる有名なHistory of Social Research Methods (1974)では言及なし。1932年のWebb夫妻によるMethods of Social StudyにはJohn Howardの言及はp. 125にあるものの、歴史史料の利用との関連でのあまりポジティブではないものであって、社会調査の始祖という理解ではない。もしかしたらsocial work系の社会調査の歴史の中に残ったのかもしれない。
  • 科学的聖人伝研究

    • GuyのHowardについての描写はこうした科学的聖人伝(scientific hagiography)的なものに見えるので、これについて、科学史ですでに研究ありそうな気がするのだが。どれから読めばいいのかわからん。あと、文字通りの意味でのhagiographyにおける典型的テーマが流用されている可能性があるので(苦しみに耐え忍ぶことと、結末としての死)、このhagiography自体についても軽く見ておいた方がいいのかもしれないが、まあちょっと大変そう。
  • 雑誌調査

    • 投稿予定雑誌掲載論文を複数読んで、雑誌の傾向をつかむ。
  • 発表スケジュール

    • 4月14日本郷概念分析研究会で発表
    • 5月25日~26日日本科学史学会で発表