没落亭日誌

科学史/メディア論のリサーチ・ダイアリー

「学術書の読み方」動画の公開

国立大学共同利用・共同研究拠点協議会が行っているシリーズ「すぐわかアカデミア。」シリーズの一環として、勤務先の京都大学人文科学研究所(人文研)紹介動画を作成・公開しました。

youtu.be

「すぐにわかる学術書の読み方:大量の本にどう向き合うか」というタイトルで、人文系の研究者がどうやって研究書を読むのかにフォーカスしたものとなっています。

私の専門が科学史とメディア論なので、科学史・科学論で行われるようになった科学者が実際にどのような研究活動をしているのかというラボラトリー・スタディーズ的な「実践」への関心と、メディアの物質性へのメディア論的関心をあわせることで、学術書を読むことに注目しました。

人文系の研究者はしばしば論文と同じく(あるいはそれ以上に)本を読むのですが、これは学術論文ばかりを読むタイプの非人文系の研究者からは、かなり特殊で理解しがたい現象に見えるでしょう。そこで動画では、自分の読書経験をもとに、人文研での実際の活動と関連付けながら、人文系の研究者が本・本棚・図書館・読書会といったものとどのようにつきあっているのかを素描することを目指しました。実際に研究者が利用している読書実践をあつかったこの動画が、学生や読書家の方にとっても参考になれば幸いです。文字で読んでも特に面白くはないですが、音声が聞き取りにくい人のために、読み上げ原稿をresearchmap上からダウンロードできるようにしておきました。

今回の動画で取り上げられている学術書は以下です。

  • リサ・カートライト(長谷正人監訳・望月由紀訳)『X線と映画:医療映画の視覚文化史』青弓社

この本は2022年度に人文研で結成された「科学的知識の共同性を支えるメディア実践に関する学際的研究」共同研究班(班長:河村賢さん)で、訳者の望月由紀さんと長谷正人さんをお招きして、合評会を行いました。動画に映っているのは私が合評会に向けて書き込みをしていた実物です。

人文研所員で科学史家の平岡隆二さんが記事を執筆されているだけでなく、平岡さんのご著書『南蛮系宇宙論の原点的研究』(花書院)も紹介されています。

ブック・ガイド関連で途中でちらっと映っている、スティーヴン・シェイピン、サイモン・シャッファー(吉本秀之 監訳、柴田和宏・坂本邦暢訳)『リヴァイアサンと空気ポンプ:ホッブズ、ボイル、実験的生活』(名古屋大学出版局)は特に人文研とは関係ありませんが、科学史研究上最大の名著の一つなので、どなたにもオススメできます。また、アン・ブレア(住本規子・廣田篤彦・正岡和恵訳)『情報爆発:初期近代ヨーロッパの情報管理術』(中央公論新社)の方も特に人文研とは関係ありませんが、初期近代における学知と読書の関係性を扱った科学史+メディア史的研究でですので、今回の動画に関心がある方には楽しめるかも知れません。

  • ロレイン・ダストン、ピーター・ギャリソン(瀬戸口明久・岡澤康浩・坂本邦暢・有賀暢迪訳)『客観性』名古屋大学出版会

『客観性』は人文研所員で科学史家の瀬戸口明久さんがリーダーを務められたグループで翻訳し、私も翻訳に参加しました。

『客観性』の書評特集が組まれているのは『生物学史研究』の102号(2023年3月発行)です。人文研からは瀬戸口さんが寄稿されています。『生物学史研究』掲載の論文は発行から一定期間経つと、J-Stage上で閲覧可能になります。

また、実際の動画ではでてきませんが、私もTokyo Academic Review of Booksというオンライン雑誌で、『客観性』の書評を書いています。

tarb.yamanami.tokyo

注の使い方で紹介されている天文学史の文献は、以下の論文です。これは私が好きな科学史論文の一つです。

最後の方にでてくる、人文研開催の「Techniques of the Shichōsha/〈視聴者〉の系譜」ワークショップを主催されたダラム大学科学史家・メディア史家であるショーン・ハンスンさんは、人文研で「歴史的メディア認識論:テレビ史におけるメディア論とテクノサイエンスの交錯」共同研究班班長もされています。

ちなみに、科学者の活動を動画でとった特に優れた仕事として、科学史家のピーター・ギャリソンがブラックホールについて撮った映画『Black Holes: the Edge of All We Know』があり、Netflixでも見れます。すごくおすすめです。

www.netflix.com