没落亭日誌

科学史/メディア論のリサーチ・ダイアリー

5 Aug 2019: HSS雑感

ユトレヒトで開催されたHSSでの学会発表を終えて、帰ってきた。

自分の発表の質疑応答はあまり盛り上がらなかったが、セッションチェアのひとがscientific journalの歴史でUniversity of Chicago Pressから最近本を出した人なので、わりと細かいコメントがもらえてよかった。

一番おもしろかったのは科学におけるbiographyについてのセッション。ここではbiography記述についてしばしば使われるego documentsの性質についての議論の中で、テストフライトパイロットでありかつ研究者であった人物のフライト関連での記述実践が紹介され、そこでの高ストレス下での判断能力をチェックするために使う試験器具における記述などがego documentに含まれるかどうかという議論があり大変興味深かった。

以下、いろいろ教えてもらったものリスト。

  • Pierre Bourdieu, 'Biographical Illusion'

オーディエンスからbiographyについて語るならなぜBourdieuのこれを引かないのか、という指摘があった。概要を聞いた感じではかならずしも新しい論点があるようなかんじではないのだが、念のためメモ。英語での翻訳が見つからなかったが、日本語訳はある模様。

また、どういう文脈だったかまったく忘れたが、Richard Powersの小説をBruno Latourが好んで読むらしいということを学んだ。

  • Tata Institute of Social Sciences

最近はフィールドワークの歴史を研究しようと思っていると言ったら、フィールド経験を社会科学教育の根幹に取り入れた組織としてインドのTata Institute of Social Sciencesがおもしろいのではないかという教示を得た。もともと1936年にsocial work用の学校として作られたらしい。どういう経緯で作られたのかは要調査。日本でもこれに相当する組織はあるのだろうか。大原社会問題研究所におけるフィールドの役割みたいな論文ないだろうか。

知識生産と場所の話をしていて、実験室以外に明確に知識生産にむつびついた場所として、いまfieldとlibraryに注目しているけれど、だれか知識生産の場としてのarchiveについて研究している人をしらないか、と聞いたらもうそういう論文があると著者本人から教えてもらう。

  • Kasper Risbjerg Eskildsen, "Leopold Ranke’s Archival Turn: Location and Evid ence in Modern Historiography,” Modern Intellectual History, 5, 3 (2008), 425-453.

  • Kasper Risbjerg Eskildsen, “Inventing the Archive: Testimony and Virtue in Modern Historiography,” History of the Human Sciences, 26, 4 (2013), 8-26.

あと、博論で統計学の研究をしていると言ったら、以下の本を薦められた。

Accounting for Slavery: Masters and Management

Accounting for Slavery: Masters and Management

18世紀・19世紀インドの奴隷制労働のもとでの人的資本管理と簿記実践の話らしい。

まったく関係ないがこの本を調べるためにHarvard University Pressを見に行ったら、以下の本が出ていた。シカゴの(白人である程度裕福な)女性顧客がその購買力を通じてどのようにしてシカゴの繁華街を形成していったのかという話でおもしろそう。

A Shoppers’ Paradise: How the Ladies of Chicago Claimed Power and Pleasure in the New Downtown

A Shoppers’ Paradise: How the Ladies of Chicago Claimed Power and Pleasure in the New Downtown

Statistical Society of London関連ではCharles Babbageとactuariesについての論文を教えてもらう。

  • Daniel Wilson, 2018, “Babbage among the insurers: big nineteenth-century data and the public interest,” History of the Human Sciences, 31: 5 (129-153)

HSSとは関係なく、MLで以下の本が出ていたことを知ったので購入手配した。

Sympathy, Madness, and Crime: How Four Nineteenth-Century Journalists Made the Newspaper Women's Business

Sympathy, Madness, and Crime: How Four Nineteenth-Century Journalists Made the Newspaper Women's Business